確定拠出年金(iDeCo)を利用した場合の老齢年金受給額への影響

先日、同僚から、「iDeCoを利用すると、将来の年金受給額が減ってしまうんじゃないの?」との疑問を投げかけられました。

老齢年金の不足を補うためにiDeCoを活用しているのですから、iDeCoを利用することで老齢年金が減ってしまっては、元も子もありません。

同僚の疑問について、念のために調べてみました。

今回は、iDeCoの利用と公的年金の受給額との関係について紹介したいと思います。




老齢年金の種類


同僚の言うところの年金受給額とは、65歳に達したときに支給される「老齢年金」の受給額のことを指していますが、老齢年金は「老齢基礎年金」「老齢厚生年金」に区別されます。

「老齢基礎年金」とは、国民年金に加入している者が、65歳に達したときに支給される年金をいいます。

「老齢厚生年金」とは、厚生年金に加入している者が、65歳に達したときに支給される年金をいいます。

ちなみに、公務員が加入していた共済年金は、平成27年10月に厚生年金に統一されています。

それでは、iDeCoの利用が老齢年金にどのような影響を与えるのか、まずはそれぞれの計算方法を調べて、その後に影響の有無を見てみます。


老齢年基礎金額、老齢厚生年金額の計算方法


老齢基礎年金の支給額は、国民年金法27条に規定されており、以下のように決まります。


続いて、老齢厚生年金の支給額は、厚生年金保険法43条1項に規定されており、以下のように決まります。

ここで、※2の標準報酬月額とは、報酬※3の月額に基づき、厚生年金法20条1項に規定されている標準報酬月額表によって決定されます。

そして、※3の「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受ける全てのものをいいます(厚生年金法3条1項3号)。

iDeCo利用時の老齢年金額への影響


それでは、老齢基礎年金、老齢厚生年金の計算方法が分かったところで、iDeCoを利用することでこれらの計算式にどのような影響があるのか検討してみます。


老齢基礎年金への影響


老齢基礎年金の支給額は、計算式を見ると、保険料を納付した月数の影響を受けることが分かります。
しかし、納付月数は、iDeCoを利用したとしても変化することはありません。

したがって、老齢基礎年金の支給額は、iDeCoの利用とは無関係であることが分かります。


老齢厚生年金への影響


続いて、老齢厚生年金の支給額については、少し複雑ですが、保険料を納付した月数と平均標準報酬額の影響を受けることが分かります。

そして、平均標準報酬額は、毎月の「報酬」(労働者が、労働の対償として受ける全てのもの)の影響を受けます。
しかし、iDeCoを利用したからといって、納付月数や労働の対償として受ける全てのものが変化することはありません。

したがって、老齢厚生年金の支給額についても、iDeCoの利用とは無関係であることが分かります。

以上のように、iDeCoの利用と老齢年金の受給額は無関係であって、老齢年金の受給額に影響はありません。


誤解の原因は?


では、「iDeCoを利用すると、将来の年金受給額が減ってしまうんじゃないの?」という誤解は、どこから生じたのでしょうか。

以前に紹介しましたが、iDeCoを利用した際のメリットの1つとして、節税効果が挙げられます。

この節税効果は、iDeCoを利用することで掛金額が全額所得控除となり、所得税の課税所得が減額されることにより得られるものです。

私が思うに、この「課税所得」が減額されることを、「標準報酬月額」が減ってしまうと誤解してしまったのではないでしょうか。

iDeCoを利用した際には、「課税所得」が減額され、節税効果が得られますが、「標準報酬月額」が減ることはないため、老齢年金の受給額には影響はありません。

今回は、同僚の疑問について色々と調べてみましたが、両者の関係が予想通り無関係なことが分かり、とてもスッキリしました。
年金等の社会保障制度はとても複雑ですが、少しずつ法令等を参照しながら計算式まで遡って考えると、なんとか整理できるもんですね~


今日のまとめ


  • iDeCoの利用と老齢年金の受給額は無関係
  • iDeCoを利用した際には「課税所得」が減額され、節税効果が得られるが、「標準報酬月額」が減ることはないため、老齢年金の受給額には影響はない。